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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)533号 判決

原告

内藤正敏

原告

三原眞治

原告

木村功

右原告ら訴訟代理人弁護士

岩田研二郎

被告

株式会社キャスコ

右代表者代表取締役

浜田淑正

右訴訟代理人弁護士

佐伯照道

山本健司

主文

一  被告は、原告内藤正敏に対し、二七五万一三〇二円及び内一三七万五六五一円に対する平成一一年二月二日から支払済みまで年五分の割合により金員の支払をせよ。

二  被告は、原告三原眞治に対し、二八五万九一七二円及び内一四二万九五八六円に対する平成一一年二月二日から支払済みまで年五分の割合により金員の支払をせよ。

三  被告は、原告木村功に対し、三三八万四六一〇円及び内一六九万二三〇五円に対する平成一一年二月二日から支払済みまで年五分の割合により金員の支払をせよ。

四  原告らのその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

六  この判決は、第一ないし第三項の認容額の二分の一について、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告は、原告内藤正敏に対し、三五一万七六八〇円及び内一七五万八八四〇円に対する平成一一年二月二日から支払済みまで年五分の割合により金員の支払をせよ。

2  被告は、原告三原眞治に対し、三六一万五三一六円及び内一八〇万七六五八円に対する平成一一年二月二日から支払済みまで年五分の割合により金員の支払をせよ。

3  被告は、原告木村功に対し、三七五万四六五四円及び内一八七万七三二七円に対する平成一一年二月二日から支払済みまで年五分の割合により金員の支払をせよ。

第二事案の概要

本件は、原告らが時間外割増賃金とこれと同額の附加金の支払を求める事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者

(一) 被告は、消費者金融業を営むものであるが、全国に五〇の営業店及び五つの管理室(債権回収・管理の専門部)を置いている。従業員数は約五〇〇名である。

(二) 原告らは、被告の大阪管理室(所在、大阪市北区〈以下略〉。室長をはじめ約二〇名)に勤務する従業員で、債権回収等の業務に従事してきた者である。そして、全労連・全国一般労働組合大阪府本部キャスコ支部に所属する組合員である。

2  就業規則等(賃金規程、同運用細則による)

(一) 被告会社では、「就業規程」第三七条、第三八条で、就業時間を午前九時から午後六時と定め、このうち休憩時間を一時間取得することとされている。

(二)(1) 賃金は、給与、賞与、その他の賃金から構成され、給与は、基準内賃金と基準外賃金からなり、基準内賃金は、基本給、職能手当、付加給からなる。基準外賃金は、時間外手当、休日勤務手当、通勤手当、調整手当等である。

付加給は、職位手当(管理職手当、専能職手当)、営業手当、家族手当、住宅手当からなる。

(2) 職能手当は、職能階級に応じて支給されるもので、初任職能手当は、能力・経験等を勘案して決定される。

(3) 職位手当は、役職職位者に支給される。

(三) 時間外手当は、所定労働時間を超えて勤務した者に支給される。ただし、一般職位者以外の職位にある者には支給しないと規定されている。

時間外労働の割増額は二割五分である。

(四) 時間外手当の単価について、賃金規定運用細則は、基本給、職能手当、調整手当の合計を一六二で除したものを時間あたりの賃金と規定する。一か月の所定労働時間を一六二時間として計算することは、原被告とも異議がない。

(五) 賃金は、月給制であり、毎月一〇日締め、当月二五日支給とされている。

(六) 原告らは、主任の職位にあり基本給、職能手当、職位手当の支給を受けてきた。その額は、別紙(四)記載のとおりである。

二  争点

1  原告らが時間外手当支給の対象外であるか否か

2  時間外労働の存在

3  定額払いによる時間外割増賃金の支払の有無

4  割増賃金算定の単価

三  争点に対する主張

1  争点1(原告らが時間外手当支給の対象外であるか否か)について

(一) 被告

原告らは、被告における職務体系上、一般職位より上位の主任の職位にあった者で、被告における賃金規程では、時間外手当支給の対象外とされており、労働基準法四一条二号による適用除外を受ける者である。また、被告においては、一般職位者以外には時間外賃金を支給しないという労使慣行があった。

(二) 原告ら

原告らは、主任という名称は与えられているものの、それは、労働基準法第四一条の「労働時間、休憩及び休日に関する規定」の適用除外とされる「監督若しくは管理の地位にある者」には該当せず、被告の賃金規程の当該規定は、労働基準法に違反し、無効である。

2  争点2(時間外労働の存在)について

(一) 原告ら

平成九年一月二五日支給の賃金から平成一一年一月二五日支給の賃金までの対象期間の「時間外労働」の実績は、別表(一)ないし(三)〈略〉記載の「主張出勤時刻」「主張退勤時刻」「主張時間外労働時間」のとおりである。

(二) 被告

原告ら主張の時間外労働については、時間外休日勤務報告書では、時間外労働はされていないとの報告がされている。

3  争点3(定額払いによる時間外割増賃金の支払の有無)について

(一) 被告

被告は、時間外手当とは明示していないが、原告らに対する職能手当、職位手当及びその額を基準として算出する賞与の内に、いわゆる定額時間外手当の趣旨を含めて支給している。そして、その支給額は、原告らの実際の時間外労働に対する手当の額を超えるものである。

(二) 原告ら

職能手当は、能力、経験等を勘案して決定されるもので、すべての社員に支給され、その金額は時間外労働の時間数とは全く無関係である。職位手当も、その役職の重要度とランク評価により支給されるもので、時間外労働の時間数とは全く無関係な金額である。しが(ママ)って、これを時間外割増賃金の定額払いということはできない。また、職能手当又は職位手当の内に時間外割増賃金が含まれるとしても、労働基準法の定める算定方法による割増賃金の支払に代えて、一定額の手当を支払う方式については、割増賃金の部分が明確に区分されていることが必要であり、職能手当及び職位手当については、右区分が明らかでないから、その支払によって時間外割増賃金が支払われたということはできない。

4  争点4(割増賃金算定の単価)について

(一) 原告ら

割増賃金算定の単価は、賃金規定運用細則により、別紙(四)のとおりである。

算定基礎額から控除されるべき賃金については、労働基準法三七条四項、同施行規則二一条の規定するところであり、その規定は制限列挙であるから、職能手当及び職位手当は除外賃金に該当しない。

そこで、原告らに対する未払時間外手当は別紙(五)〈略〉のとおりである。

(二) 被告

賃金規定運用細則に規定する時間外賃金の単価の計算式は、一般職位にある者についての規定であり、右計算式では、職能手当が考慮されているが、原告ら主任の職位にある者の職能手当には時間外労働に対する定額払い部分を含むのであるから、その算定基礎額からこれを控除すべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1(原告らが時間外手当支給の対象外であるか否か)について

(証拠略)、原告内藤本人尋問の結果によれば、原告らの職位である主任は一般職位の上位にあるものではあるが、原告らが属する大阪管理室においては、原告らは、室長、班長の指揮監督下にあり、原告らの下に一般職位の部下がいるわけでもなく、その出退勤は、平成八年一〇月まではタイムカードにより、その後は出・退社記録によって管理され、債務者の自宅等を訪問して債権回収を行う訪問回収業務についても、室長、班長の指揮監督下におこなっていたものと認められ、労務管理に関し経営者と一体的な立場にある者で、出社退社について厳格な制限を受けない者とは、到底いえない。してみれば、原告らは、労働基準法四一条二号にいう監督若しくは管理の地位にある者に該当するとはいえないから、原告らについて時間外手当支給の対象外とすることはできない。

被告は、一般職位者以外には時間外賃金を支給しないという労使慣行があった旨主張するが、仮に、右労使慣行が認められるとしても、労働基準法三七条に反する慣行には効力を認めることはできない。

二  争点2(時間外労働の存在)について

1  (証拠略)、原告内藤本人尋問の結果によれば、原告らの時間外労働時間については、別表の認定出勤時間、認定退勤時間、認定時間外労働時間の各欄記載のとおり認めることができる。

2  なお、出・退勤記録(〈証拠略〉)について、被告はこれが就労開始又は終了時間を記載したものではないというが、原告内藤本人尋問の結果によれば、右書面は、原告らが執務する部屋の入り口付近に置かれており、入室後又は退室前に記載しているものであり、これに記載後業務開始までに、あるいは業務終了後退出までに、殆ど時間がかからないと認められ、これによれば、特段の事情がない限り、右に記載された時間をもって就労開始又は終了時間と推認することができる。

訪問回収については、原告らの自宅から訪問先に至るまでの時間、訪問先を退去した後の時間は、被告の指揮監督下の(ママ)あるとは認められないから、これを労働時間ということはできない。また、原告らが自宅から直行又は直帰した訪問回収のうち、具体的に訪問した時間が不明のものについては、時間外労働をしたかどうか不明であって、これを認定することはできない。なお、原告内藤本人尋問の結果によれば、報告書に午前八時五分とあるものは、午前八時までに訪問先に到着していたものであると認めることができる。

原告らは、訪問回収の場合、午前八時から午後九時まで就労していなくてもその時間を就労したとして時間外賃金を支払う労使慣行があった旨述べるが、未だ右労使慣行を認めることはできない。

三  争点3(定額払いによる時間外割増賃金の支払の有無)について

被告は、原告らに対して支給された職能手当、職位手当には時間外手当の趣旨を含めて支給している旨主張するので、検討するに、時間外賃金を定額で支払うこと自体は、割増賃金部分が他の部分と明確に区分されており、その額が労働基準法所定の割増賃金額を超える限り違法でないといえる。しかしながら、被告における職能手当は、一般職位にある者にも支給される手当であって、これに時間外割増賃金を含むか否かについては疑問があるうえ、仮にこれを含むとしても、割増賃金部分と他の部分とが明確に区分されているとはいえず、また、職位手当についても、その役職の重要度とランク評価により支給されることとなっているから、これが時間外割増賃金の定額払いの趣旨で支給される賃金とはいいにくいが、仮にこれを含むとしても、割増賃金部分と他の部分とが明確に区分されているとはいえず、結局、職能手当、職位手当の支給により時間外割増賃金が支払われているとはいうことができない。

四  争点4(割増賃金算定の単価)について

時間外賃金算定の単価について、賃金規定運用細則は、基本給、職能手当、調整手当の合計を一六二で除したものを時間あたりの賃金と規定するところ、被告は、右計算式は、一般職位にある者についてのものであり、職能手当が考慮されているが、原告ら主任の職位にある者の職能手当には時間外労働に対する定額払い部分を含むのであるから、その算定基礎額からこれを控除すべきであると主張し、また、職位手当も控除されるべきであると主張する。しかしながら、職能手当、職位手当をもって時間外割増賃金の支払がされているといえないことは前述のとおりであるし、割増賃金算定の基礎額については、これから控除されるものは、労働基準法三七条四項、同法施行規則二一条が列挙するところで、これは制限列挙と解すべきであるから、右職能手当及び職位手当をこれから控除することはできないというべきで、右被告の主張は採用できないものである。

してみれば、原告らの時間外賃金算定の単価については、別紙(四)記載のとおりとなる。

五  結論

以上によれば、原告らの時間外手当の額は、別紙(六)記載のとおりとなるので、右額に同一額の付加金を加え、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本哲泓)

別紙(四) 時間外手当単価表

(時間外手当の単価に変更あり、3期に区分)

【1】 第1期(平成9年1月分~平成9年3月分)

〈省略〉

【2】 第2期(平成9年4月分~平成10年3月分)

〈省略〉

【3】 第3期(平成10年4月分~平成11年1月分)

〈省略〉

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